創業融資を申し込むときに、必要なものの代表格は「自己資金」ですね。
自己資金とは、これから自分が始めようとしている事業で必要なお金のうち、自分が用意できるお金のことをいいます。
そして自己資金の額の大小は、融資審査の結果にも大きく影響してきますので、やはり自己資金は多いに越したことがないといえます。
とはいえ自分が用意したお金といっても、いろんな出どころからお金は生まれるのですから、どこまでが自己資金で、どこからが自己資金ではないのか、その線引きがむずかしいと思います。
そこで、今回はこの自己資金についてお話しさせていただきたいと思います。
創業時の「自己資金」の額の大小が、創業融資の審査に大きく影響するその理由とは?
そもそもなぜ自己資金の額が創業融資の審査に大きく影響するのかというと、やはり「まずは自分の持っている資金だけで自分の事業をやること」を前提としているからです。
ただ自己資金だけではどうしても事業を始めるうえでお金が足りないというのであれば、その分については、公庫の方でお手伝いしましょう、というのが創業融資の基本的な考え方です。
そのため、創業時には、他人のお金を当てにせずに、大部分は自分のお金で事業をしなければならないということを忘れてはいけません。
そう考えた場合、自己資金があまりに少ないというのは、やはり審査において
「他人の資本に頼りっぱなし」=「事業にかける意気込みが感じられない」
という風に見られてもおかしくないと思います。だから事業を始める際は、自己資金をできるだけ多く用意する必要があるのですね。
自己資金とは「自分の事業に出資できる分のお金」である。
では具体的に自己資金とはどういった性質のものをいうのでしょうか?
創業融資における「自己資金」は、公庫などの金融機関に申込みをした時点で、「自分が事業用資金として用意できるお金」のことを指します。
たとえば、もし今手持ちの資産が1,000万円あったとしても、これから子供が大きくなってからたくさん学費がかかってくるので、このうち半分は取っておいて、残り半分だけを事業資金として使いたいというのであれば、この場合の自己資金は「500万円」ということになります。
つまり創業融資の申込みをする際、自己資金の額を公庫に提示するときは、今自分が持っている資産を全部公庫に提示したうえで(住宅ローンなど、いわゆる「負の資産」も含む。)、そのうちこれだけを自己資金として提供します、ということをしっかり説明する必要があります。
自己資金で「現物出資」は認められる?
たとえば、法人の場合、会社設立をするときに資本金を出資する際、自分の所有している車やパソコンなどを、設立する会社に「現物出資」をしてもいいことになっています。
しかし「現物出資」とは、その事業を行う上での「資産」を事業用として利用できるものでないといけませんから、もっぱら家庭用として使っている自宅やマイカーなど、この先事業で使う予定のないものは「現物出資」とは認められません。
その点からいえば、個人の場合でも、創業融資を申し込む際の自己資金を評価する場合「現物出資」は一応認められることになります。
しかし、どこまでが出資として認められるのか、あるいはその評価額がいくらになるのかなど、個々のケースで判断が分かれると思いますので、その評価に時間を要する場合があります。
そう考えるとやはり自己資金は「現金」で用意しておくのが一番だと思います。
次のようなものは自己資金に入れてもいいの?
自己資金については現金が一番だということがわかりました。では次に自己資金として提供できるお金はどこまでが可能なのかについて考えてみます。
たとえばつぎのような性質のお金はどういったことが考えられるでしょうか?
退職金
サラリーマンの場合、独立開業するにあたり退職する場合、勤続年数に応じて退職金が支払われる 場合があります。
もし今サラリーマンで、退職したときにもらえる予定の退職金を「自己資金」として公庫に申告してもいいのかという疑問があります。
考え方としては、融資を申し込んだ時点で「事業用資金」として使えるお金でないといけないと考えた場合、退職金など今後入ってくる予定のお金については、やはり自己資金には当たらないと考えた方がいいと思います。
もちろん退職したあとでもらった退職金を、自己資金として申告するのであれば問題ないと思いますし、まだ退職金をもらっていなくても必ずもらえることを証明するものを用意できればまた対応が変わってくるかと思います。
定期預金や生命保険の解約金など
定期預金や生命保険などの解約金の場合、そのままでは自己資金として認められない場合があります。
創業融資に申し込んだ時点で、事業用に使えるお金として換金しておかないと自己資金とは認められない場合がありますので、こちらももし事業用の自己資金として申告するのであれば、事前に保険や定期を解約して現金化しておくのがいいでしょう。
株式や国債などの証券
現在お金では持っていないが、換金すれば現金にすることができるものの代表格として、株式や国債といった証券があります。
これらは換金さえすれば、それは自己資金として認められるでしょうが、しかしそのまま証券として持って行って、これを自己資金だと主張してもそれは受け入れられない可能性があります。
自己資金とは、あくまで自分の事業のために使う予定のお金でないといけませんから、証券などはそのままでは事業用資金として利用できません。
以上のことから、まず自分が持っている証券類を自己資金として申告したいのであれば、あらかじめ換金して現金化しておく必要があると思います。
父親など親族が出してくれたお金
家族や親族が、自分の事業用にと供与してくれたお金は、厳密には自己資金ではありませんが「自己資金に準ずるお金」として認められる場合があります。
もしその場合は、「見せ金」と間違われないようにするため、あらかじめこのお金は「父親からのものである」ことを事前に公庫に申告しておく必要があります。
※ここでいう「見せ金」とは、どこかからお金を一時的に借りてきて、あたかも自己資金のように見せかけるお金のことをいいます。このようなお金は、当然自己資金とは認められませんので、公庫からこのようなあやしいお金の出所については徹底的に聞かれます。
その上で、父親から頂いたお金だとわかるように、父親名義の口座から自分の銀行口座に振り込まれたと分かるように、通帳に父親の名前が記載されたものを提示できるようにします。(※この場合、金額によっては「贈与税」が発生する場合もあります。)
しかしこの父親など親族からもらったお金を自己資金とみなすのかどうかは個々の事案で判断されますので、やはり事前に公庫に相談する際に確認しておいた方がいいでしょう。
ではどうやって「自己資金」であることを証明するのが一番いいのか?
上記のように自己資金はいろんなケースが考えられますので、あとでいろいろ面倒なことにならないように、次のようにしておくのがいいと思います。
やっぱり自己資金は「現金」であることが一番!
上記のことを考えた場合、やはり一番なのは現金で自己資金を見せることではないかと思います。
現物出資などでもいいのですが、いろんな手間を考えたときやはり自己資金を提示するときは、面倒でも現金の形にしておいた方がいいかと思います。
そして自己資金は「自分名義の銀行口座」に入れること!
では自己資金は現金でというのは分かりましたが、どうやって自己資金であることを証明すればいいのでしょうか?
まず、自己資金であることを証明するためには「自分名義の銀行口座にお金が入れてあること」がとても大事になってきます。
自分名義の口座にお金が入ってあるのであれば、基本的にそのお金は自分のものであると考えていいと思いますので、公庫も自己資金が入ってある通帳を面談するときに持ってくるように言うと思います。
自己資金の「見せ方」を工夫することで審査が通りやすくなる
戦略的に自己資金を見せることは審査の結果にも影響してくると思います。では具体的にどのようにすればいいのでしょうか?
もし自己資金が300万円だとした場合、いきなりポンと「300万円」と記載された通帳を見せた場合、公庫にすれば、それが本当に自分で貯めたお金なのか、「見せ金」ではないのかと疑われる可能性もあるので注意が必要です。
ズバリ一番いいのは300万円なら「毎月3万円」が100回入金されている自分名義の通帳を見せることです。
このような通帳であれば、少なくとも「見せ金」でかき集めたものではないことがすぐわかりますし、何よりも毎月自分の給料からせっせとお金を貯めていたことがわかるので、事業への熱意がしっかり担当者にも伝わりますので、これが一番いいやり方だと思います。
逆に自己資金の「見せ方」で一番ダメなパターンとは?
自己資金の見せ方で逆に一番ダメなパターンはズバリ「タンス預金」です!
かりに300万円の自己資金で公庫に融資を申し込もうとした場合、タンス預金で貯めた300万円をそのまま公庫に持って行って担当者の目の前で見せたとしても、それは自己資金として認められない可能性があります。
なぜなら、そのお金が「本当に自分のものであるのか」を証明するのが非常にむずかしいからです。お金に自分の名前でも書いていればわかるのですが、そういうわけでもありませんので、これが一番厄介なパターンだと言えます。
このお金が「見せ金」ではないことを担当者に説明するのは大変です。その意味では、今これから事業をやろうと思っていてタンス預金でお金を貯めている人はすぐにやめて、毎月少しずつでも定額を自分名義の銀行口座に預けるというように変えるようにしてください。
まとめ
自己資金は、その事業を行うに際して、自分の事業にかける意気込みを公庫側に示すものだといえます。
自己資金がこれだけあるが、事業を始めるにはあとこれだけ足りない、だからお金を貸してほしいということを担当者側に説明しないといけないので、自己資金は多くあるに越したことはありません。
まずは自己資金をしっかり集めて、その見せ方も考えてから申し込むようにすれば審査の結果も大きく変わってくるように思いますので、その辺を念頭に置いて審査に臨むようにしてください。